大村屋酒造場

東海道島田宿で一世を風靡した『若竹鬼ころし』

大村屋酒造場は、東海道五十三次のうち日本橋から数えて23番目の島田宿で、天保3年(1832年)に初代・重兵衛が創業。『大村屋』の屋号は、創業者が焼津の大村で醤油醸造業に生まれ、分家して島田で油屋を開業し、財をなして酒造業を始めたことに由来している。
大井川が流れる東海道の要所・島田。大村屋の蔵は、南アルプスを源とする大井川の東岸に位置し、その大井川の伏流水と温暖な気候に恵まれている。最盛期には7軒あった島田の造り酒屋。しかし昭和40年代には物流の激しい東海道にあって灘や伏見の酒に市場を占められ次々と蔵をたたみ、大村屋も廃業の危機に。島田の酒を絶やさないでほしいという地元「若竹会」の声のもとに、古文書につたわる「島田宿で憩う旅人の間で一世を風靡した銘酒」を『若竹鬼ころし』として復活。「鬼をも殺す強い酒」の名の通り、辛口ながら軟水で仕込みじっくり熟成させて深くまろやかな酒である。

歌麿の美人画『おんな泣かせ』

酒銘は島田の芸妓が命名したという粋な逸話も残っている『おんな泣かせ(純米大吟醸)』。そのユニークなネーミングと、ラベルに配された歌麿の美人画でひときわ目を引く酒である。「女性もその美味しさに泣けてしまうような酒」という由来の名には、日本酒が苦手な方や普段あまり口にされない方々にも、美味しく飲んで頂きたいという想いがこめられている。年に1度だけの、米をしっかりと磨き、ていねいに醸した上品なイメージを持った極上の酒である。

個性輝く!「呑人の笑顔を想う酒造り」

常に「地酒として個性輝く酒」が目標の大村屋酒造場の酒。
静岡酵母の持つ上品で落ち着きのある香りも心地よく、 キレよくかつ幅と深味も充分な味わいが特徴である。
2002年より特定名称酒(本醸造・純米・純米吟醸・大吟醸・純米大吟醸)のみを醸造。
そのしっかりしたボディは、まさに食中酒にふさわしい。
新型自家精米機、洗米機も導入し、原料処理に力を入れる。
「麹は手をいれて手間をかけ、五感で感じて造る酒を」と、本醸造から大吟醸酒まで長いものでは72時間かけて製麹。全ての麹は10kg盛の麹箱を使用する手仕事である。
静岡県は温暖な気候でも知られているが、そのために冷却には特に気を使う。仕込みタンクはすべて冷蔵庫内に設置。蒸した掛米は予定温度まで冷ますのに放冷機を通し、冷凍室で冷却してから使用するほど。新たな冷蔵倉庫の完成に伴い、2014年からは全て1回火入れのビン貯蔵に。ビン詰め火入れ後ボトルクーラーですべての酒を急冷する徹底的な品質管理。酒造りの技を十分に活かす設備が整い、「呑人の笑顔を想う酒造り」をスローガンに新たなステージへの挑戦が楽しみである。

日比野杜氏の挑戦と『誉富士』

平成23年度以降、杜氏の大役を引き継いだのは、日比野哲(南部)氏である。料理人を志し、和食の修行経験もあるほどの日比野杜氏は、「素材や料理の邪魔をせず、引き立て、調和する酒を」という明確なコンセプトを持つ。試験醸造の初期の段階から静岡県酒造好適米『誉富士』を使い、新しい商品企画に取組んでいた日比野杜氏。自身も「『誉富士』で醸した酒が好き!」だという。
杜氏のこだわりもあり、40%、50%、55%、60%の精米歩合それぞれで『誉富士』を使った酒を造っているため、各商品の味わいの違いや個性を飲み比べることができる。

地元の応援と深く繋がる

地域と密接なつながりを持つ大村屋では、『長い木の橋』『連台越し』『大井川の詩』など、ご当地ブランド・PB商品などを多数生産している。
笑顔がまぶしい7代目の松永孝廣社長は、先代からの地域との密接なつながりを大事にする姿勢を受継ぐ。夏には蔵を開放してクラシックやジャズのコンサートを開催し、地域・食・農業を学ぶ『お米とお酒の学校』を設立するなど、大村屋酒造場の日本酒を通じて、地元を中心に多くの人が地域文化に触れる機会や場作りに力を入れている。
プロ向けには酒販店や利き酒師の研修を受け入れるなど日本酒の普及、啓発にも努めている。

『夢』『恋』『幸』『涙』の四季折々の可憐な乙女

『鬼乙女』シリーズは、日本酒の特徴の一つである四季により変化する酒の味わいを、
一年を通して楽しめる。
春の花見酒、夏の生酒、秋のひやおろし、冬の初しぼり。春夏秋冬それぞれの時期にサブタイトル・テーマを『夢』『恋』『幸』『涙』としたラベルデザインの乙女のイラストとともに地元の伝統「島田髷」の結いも可憐に表現し、既存の顧客のみならず、初めて日本酒を飲むという方にも好評価である。

海外16カ国(平成29年9月現在)に輸出

「日本酒は日本の伝統文化。恥ずかしくないものを出したい」との思いで大吟醸クラスを率先して紹介したことから、アメリカで『WAKATAKE』は美味しい日本酒の代名詞にもなっている。
上品な落ち着いた香りと、軽快で呑み易くまろやかな味わいが特徴の静岡酵母で醸した酒。海外でのコンテストでも評価され、輸出需要はさらに高まっている。
★IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)に出品した『若竹鬼ころし 特別純米原酒』はSilverメダル、『若竹鬼ころし 特別本醸造』『大吟醸古酒』はCOMMENDED(審査員推薦の酒)として受賞。(IWCは世界最大規模のワイン品評会、IWCは、毎年ロンドンで行われる"世界で最も大きな影響力を持つ"といわれるコンテストの「SAKE部門」)