森本酒造

新古今和歌集や源氏物語に登場する『小夜衣』

明治20年(1887年)頃、神尾村(現在の菊川市神尾)で森本庄平氏が創業。 大正13年(1923年)に良質な水を求めて現在の地に移転した。「ここの水は南アルプスの伏流水で、10m掘るだけで鉄分のない優しい水が出る」と現在5代目の森本社長。「小夜衣」の名は新古今和歌集や源氏物語にちなんだと伝わっている。 少量生産ということもあり、県内中心の流通で酒が売り切れてしまうため、全国的には『小夜衣』の名はまだあまり知られていないが、静岡県内でも専門店での評価が高い、手造りに徹した蔵である。 平成12醸造年度から、蔵元自らが造る体制に全面的に切り替え、森本社長の信念に基づいた理想の酒造りが行なわれている。素朴でユニークな人柄の森本社長の個性ともども、醸す酒も個性豊かだ。

地酒工房・小夜衣

JR菊川駅の真前にあった古い蔵から、平成18年6月の区画整理事業に伴い、現在の蔵に移転。18醸造年度から麹室などほとんどの設備が新しくなった。 酒蔵にはそれぞれ、数値化できない微妙な環境の違いがある。蔵に棲み付いている微生物、香り、温度、湿度や風の流れなどはそれぞれが酒造りに微妙な影響を与え、これを酒蔵は「蔵癖(くらくせ)」と呼ぶ。 造り手たちは、蔵癖に合った造りの工夫を長年積み上げて、理想の酒造りに近づけている。蔵を移転をするということは、これまで蓄積してきたノウハウをまた一から積み上げなければならないという、リスクを伴うことであった。 最後まで移転に抵抗しながらも、交渉によって元の酒蔵が使っていた井戸の水を引き続き使えることになり、水が変わることによる酒質の個性の変化は避けることができた。 「うちの蔵は地酒工場ではなく、『地酒工房』だよ」という森本社長は、移転により新設された蔵の設備にも意欲的に独自のアイデアを盛込み、移転のリスクからメリット生み出し、オンリーワンの酒造りをしている。

造る酒は自然流(じねんりゅう)

社長ひとりで自ら造る、妥協を許さない納得のゆく酒。 小さい蔵だからこそ、こだわりのある美味しいお酒が出来る。派手ではないけれど繊細さと旨味がうまく両立した美酒。 森本社長杜氏が造る酒は自然流(じねんりゅう)という。 「酒を造っているのは人ではなく酵母。人はその世話と仕上げをするだけ。なので毎年どういう酒が出来るのか解らない。」 他の蔵みたいに「こういう酒を造る」というように酒を造っていないため、発酵は酵母にまかせ、最後に自分が飲んで美味しいと思う酒に仕上げる。 「酒が出来てからどうやって売るか考える。」 「量を飲むだけではなく楽しんで飲んで貰いたい。」 繊細且つ大胆・大胆且つ繊細・・・それが『小夜衣』の魅力である。

【森本社長 語録】

「小夜衣ファン」の飲食店、酒販店はみな、森本社長の鋭いコメントに最初は畏怖を覚えながらも、次第にチャーミングで、小粋な人柄に魅了される。社長の人柄が滲み出た大胆かつ繊細な造りから生まれるセンスある酒を心待ちにしている。 ここにその森本社長のことばを紹介する。 「香りは強すぎてもダメ、酒の良し悪しは全て味と香りとのバランス」 「料理がすすまなくてはならない」 「素質が無い酒は、いくら貯蔵しても美味くはならない」 「完璧な酒より、少々欠点がある方が味としては美味しいもんだ。人間と一緒だね(笑)」 「古酒は、香りは老ねても、味まで老ねちゃダメだね。」 「常温に戻した時にうまい酒かどうかわかる。」 「小手先ではなく真っ向勝負」 銘酒といわれる蔵の酒質についての意見や感想についても、歯に衣を着せずにズバリと確信をつく森本社長は、造り手も一目置く存在である。

ファンが待ち望む、ユニークな視点

「今年はどういう酒が出来るのか?」 それは「小夜衣ファン」の最大の楽しみである。 発酵は酵母にまかせ、最後に自分が飲んで美味しいと思う酒に仕上げる。自然流の森本社長がつくる四季の酒は、出来あがってから商品化される。 「寒造り」ならぬ「勘造り」や、「手搾り」ならぬ「人力手搾り」、「山廃仕込」ではなく「速廃仕込」、などなど独特の表現。 そして、『小夜衣の詩』『小夜の山賊』『純米大吟醸 宝ノ山ダde小袋取り』『火の用心 燗酒仕立』『愛のメモリ晩酌酒』等々、酒の出来上がりに寄り添った、飲み手の興味をそそるユニークなネーミングも、毎年話題になっている。

フラッグシップ酒『小夜衣 地酒工房 特別純米 誉富士』

全国的にも有名な酒造好適米『山田錦』のDNAを持つ、静岡県酒造好適米の『誉富士』を使ったフラッグシップの特別純米酒。 米の特性として秋に味がのり、美味しくなることから、旨味を引き出す造りをしている。 香りが後に控え、味がまろやか。果実系の香りは押さえられ、かすかな花の蜜の香りとカラメル香が感じらる。コクと香りが力強く主張してきて重厚な味わいだが、トータルバランスが抜群ですっと嫌味なく体が自然と受け付ける。 「小手先ではなく真っ向勝負」森本社長の信念のとおり、飲むほどに、納得させられてしまう酒。後からじんわりと効いてくるこの酒に出会うと、忘れられられない。そんな酒である。

全量純米酒生産に!

平成24年醸造年度からは、息子の圭祐氏も造りに加わり、親子二人三脚で醸す。 平成26製造年度から純米酒のみの醸造に切り替えている。 酒の販売は、県内が中心であるが、県外からの熱心な引き合いも多く、東京、大阪、九州でも、焼酎や日本酒をあつかう専門店から引き合いがある。 生産量が限られているため、毎年12月には酒が売り切れてしまうが、インド等、海外への輸出依頼も寄せられているとのことで、今後も益々躍進の予感である。