ご挨拶

言葉を失うほどの美味しさ。
初めて酒蔵に酒造りの実習に来たときに飲んだお酒の味。
酒造りに触れたときに感じた衝撃を今でも覚えています。
朝焼け前のまだ暗い中にふわりと見える蒸米の湯気。
蔵内のぴんと張りつめた空気感。
蒸したお米の柔らかい香りが心地よい。

お酒造りはお米からお酒になるまでの間は、昼夜問わず24時間体制でコメ1粒1粒と向き合う根気強さのいる仕事です。
そう本で読みながらも、一体どうやって24時間体制になるのかはぴんと来ませんでした。

すべてが手作業という時代から移り変わりはあるものの、機械ではわからないほんの微細な変化に対応が、できるのはやはり経験値に基づく感覚と研ぎ澄まされた感性。
丁寧な手仕事を淡々と、なんども繰り返し正確に行うプロの技。
米やもろみの状況をみながら発酵という生命の営みを見守り続ける視線の先にあるのは、自然のチカラへの感謝と畏怖、とても謙虚な姿勢でした。
酒蔵は日本古来の伝統の技術が凝縮された濃密な空間だと思いました。

それまでただ飲んでいた日本酒が、こんなにも時間がかかり、ひとつひとつ丁寧な作業の積み重ねによって出来上がったものという事に特に驚きました。造り手を想いながら、感謝を込めて、酒を飲む。
搾ったばかりの出来立てのお酒をほんのひと口を口に含み
「はぁ……..」
と溜息しかでず、言葉にだせない美味しさでした。
この幸せな気持ちを皆に知ってほしい。
そんな思いで 富士の酒 を始めました。

どうぞよろしくお願いいたします。

富士の酒 代表 榛葉 冴子(利酒師・酒匠)